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行方不明(23)

アルバムを閉じてふと箱の隅を見ると、絵巻物のようにくるめられた茶けた紙があった。それを開いて見ると、学校の全生徒と全職員が載っている大きな写真だった。その写真の上のほうに、メルボルン西高校創立百周年記念と書いてあった。300名ばかりの人物が写されており、一人ひとり豆粒のようで、トニーやジョンを探すのも大変そうだった。虫眼鏡を持ってきて、一人ひとり調べていった。5分くらい一生懸命見ていくと頭が痛くなって、やめようかと思った時に、トニーが見つかった。しかめ面をして前をまっすぐ見ている。その隣にははにかんだようなジョンがいた。先生たちは前に座っているはずだから、前列に椅子に座っている人たちを調べた。一度見たが分からなかった。目が痛くなったので一休憩して、もう一度見ていった。やっとグレッグが見つかった。一度見たとき分からなかったはずだ。その頃のグレッグは太鼓腹で太っていたのである。

 静子のこの発見に身震いをした。このことをすぐにエリック刑事にしらせるべきかどうか考えた。しかしたとえグレッグがミスター残酷だとしても、どうしてトニーの家を犯行に使えたのだろう。色々な疑問が頭をもたげかけたが、トニーがグレッグに殺された可能性が高いとなれば、静子は自分がグレッグに近づくのは危険だと感じ、明日エリック刑事に連絡しようと決心したとき、電話がかかってきた。電話の相手がグレッグだと分かったとき、静子は思わず声が上ずった。

「ああ、グレッグさん。先日はお葬式にいらしてくだっさって、ありがとうございます。」

「いえ、まさか教え子があんな死に方をするなんて思いもよりませんでしたよ。ところで、警察の捜査はすすんでいますか?」

思わず胸がドキッとした。

「いいえ、殺されてから随分日にちがたっているので、捜査は難航しているようです」

「そうですか。実は先日ジョンやトニーとクラスメイトだった男に会って、奇妙なことを聞いたので、捜査のお役に立たないかなと思ったんですが」

「それじゃあ、担当のエリック刑事に連絡していただけませんか」

「いや、刑事さんに会って話す前に、奥さんはどう思われるか、奥さんのご意見を聞いて、警察に行こうかなと思うんですが。捜査に関係のないことだったら、警察の手をわずらわせるのも、気がひけますからね」

「でも、、」

「それじゃあ、今からお迎えに行きますから、一緒にどこかで夕飯を食べながら、話しましょう。」
静子に有無を言わせないように言い方だった。

電話が切れた後、静子は恐怖で身がすくんだ。震える手でエリック刑事の携帯電話番号を入れた。呼び鈴が聞こえるが、誰も出てこない。メッセージバンクにメッセージを入れて切った。
「静子です。トニーの殺害犯人だと思われる人から電話がかかってきました。今からうちにくると言っています。助けてください」

急いでメッセージをいれたと思ったら、呼び鈴が鳴った。もう来たのだ。

ドアを開けるなと心の声が言っている。その場にたたずんでいると、呼び鈴がしばらく鳴っていたが、それも止まり、静かになった。

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行方不明(22)

2週間後、静子の前に現れたエリック刑事は、出発前の意気込みとは対照的に、意気消沈した様子だった。

「いやあ、残念なことになりましたよ。スティーブはシロですね」

「どうしてなんです」

「お宅のご主人が行方不明になった日は、スティーブはアメリカにいて、いつものように出勤していたんですよ。目撃者もたくさんいますし、このアリバイは崩しようもありません。出国の記録も調べましたが、トニーさんが行方不明になった2年前はオーストラリアには一度も帰っていないんですよ」

「共犯者がいるんじゃありませんか」

「いやあ、もしスティーブがミスター残酷だったら、共犯者は作らないと思いますね。リスクが大きすぎますから。それに強盗などだったらお金の山分けということで共犯者は作れますが、ミスター残酷の犯行は共犯者にとって何のメリットもありませんよ。これは捜査本部の一致した見解です」

「それでは、また捜査は振り出しにもどったということでしょうか」

「そうですね。残念ながら。スティーブがミスター残酷ではないという証拠もつかめませんでしたが、お宅のご主人の殺害には無関係だったということだけはいえます」とエリック刑事はため息をついて、戻っていった。

 その晩から、静子は「ミスター残酷」について、もう少し調べなければいけないと思い始めた。考えてみれば、その事件についてほとんど知らないと言っていい。インターネットで検索すると、いくつか出てきた。それによると、4人の女の子が暴行されている。そのうちの一人の犯行は確実にトニーの住んでいた家で行われている。その当時その家に住んでいたトニーもスティーブも犯行にかかわっていないとすると、その家の鍵を二人以外にもっていた人物がいたことが考えられる。しかし、家の鍵を持っていても、そのとき二人が家にいれば二人に知られずに女の子を連れ込むことは難しい。そこで、静子の思考は止まった。

 翌日州立図書館に行ってみた。犯行が行われた日付を中心に古い新聞記事を見ていった。そこで、静子にとって新しい発見があった。それは、心理分析官の見解だった。
「犯人は、中流階級の男で、結婚をしており、普通の家庭生活を営んでいると考えられる。犯行が行われた時期を調べると、学校の休みの時が多いことから、学校関係者とも考えられる。被害者達が、おなかが突き出ていると証言していることから、中年太りの太鼓腹の男と考えられる。」

 これに当てはまる人物が、トニーの周りでいただろうか?学校関係者といえば、グレッグだが、グレッグはどちらかといえばやせ気味で太鼓腹ではない。しかしダイエットによってやせることも可能だ。

 それからうちに帰って、トニーの遺品を調べていった。結婚指輪がまず目に入ってきた。それから色々な書類。そして写真のアルバム。子供のときの写真から始まって、学校でとった写真が載っていた。トニーが高校生の時の写真にグレッグが写っているものがないか、一枚一枚隅から隅まで調べた。背景に写っていることも考えられるからである。アルバムにある写真は皆学友ととったものか家族ととったもので、グレッグらしき人物は見当たらなかった。

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