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前世療法(2)

玲子からの電話を切った後、佐代子は、初めて聞いた前世療法というのが、いまいちピンとこないので、ネットで調べてみた。すると、前世療法で見た人生というのが、男はエジプトの王のファラオ、女はクレオパトラだと言う人が多いので、眉唾物と言う説もあると載っていた。でも、学者の中には真面目に前世を見た人と言う人の話を検証していった人もいるそうだ。たとえば、イアン・スティーブンソンという学者は、退行催眠中知らない言語を話した人がいたと報告している。その結果、中には実際に過去に生きていた人物だったという確証を得られた人もいるそうで、全面的には否定できないとも説明がでていた。

 佐代子は、ともかく、百聞は一見に如かず。嘘か誠か自分の目で確かめてみようという気になった。

 ワークショップの当日、約束通り玲子が迎えに来てくれた。玲子は、

「何が出て来るか、楽しみだわ」と、まるで玉手箱を開ける前の浦島太郎のようにうきうきしていた。そして、

「佐代子さんは、前世は、何者だったと思う?」と興味津々で聞いた。

「クレオパトラかな」

「え、クレオパトラ?」

佐代子の答えをまじめに受け取った玲子は、びっくりして佐代子の顔を見た。

「冗談よ、冗談。来る前に前世療法に関して調べてみたの。そしたら、前世がクレオパトラだったという女性が圧倒的に多いんですって」

「へえ、そうなの。それって変だよね」

「うん、変だよね。昔は、貴族何てまれな存在で、ほとんどが農民だったんでしょ。だから、多分、私の前世は百姓だったと思うわ。まあ、そう思っていれば、落胆しなくてすむわ」

「そうね」と言いながらも玲子は前世はヨーロッパのお姫様だったというのを期待しているようだった。

著作権所有者:久保田満里子

 

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前世療法(1)

第一章        佐代子

「ああ、また今日のデイト、失敗かあ!」

 佐代子は、アパートに帰るなり、ハンドバックを床に放り投げて、ソファーに座り込んだ。

 「もう嫌だ、嫌だ、嫌だ。これで、何回目のデイトだろう」

そう思うと、気が滅入って、頭を抱え込んでしまった。インターネットのデートサイトで、少し脈がありそうな男に片っ端からデートを申し込んでいるのだが、どの男とも、お互いしっくり来ない。佐代子は最近焦りを感じ始めていた。何しろもう33歳。高齢出産と言われるお産のリスクの多くなる35歳までには、何とか子供を出産したいと思っている。だからできるだけ早く結婚相手をみつけたいのだ。

 佐代子は、なかなかの美人で、若いころはモテモテで、ボーイフレンドと別れてもすぐに新しいボーイフレンドができ、ボーイフレンド探しで苦労をしたことがなかった。それが裏目に出たようだ。20代は大いに遊んで、結婚相手は30歳になって慎重に選べばいいとおっとりと構えていたが、30過ぎて、同棲していたボーイフレンドに別れようと言われて、深くも考えずにさようならをして、さて、次のボーイフレンドは誰にしようかとあたりを見回すと、めぼしい男は皆、すでに結婚していた。

 そんな訳で、自分のプライドを捨てて、インターネットのデートサイトで、相手を探し始めたのが1年前のことだったが、うまくいかないのである。

 気が腐っているところに、親友の玲子から電話がかかってきた。彼女も、佐代子のことを気にかけてくれているようだった。玲子もボーイフレンドはいないのだが、5歳年下のせいか、まだ結婚に関しては、悠長に構えている。

「どうだった、今日のデイトは?」

「もう、そのことは聞いてほしくないわ」とは言ったものの、うっぷんのはけ口が欲しい。ついつい愚痴をこぼした。

「インターネットに載っていた写真は、きっと10年くらい前の物だと思うわ。だって、頭が剥げていて、いかにもおっさんって感じだったもの。まだ40歳だというのに、趣味はって聞いたら、ゲートボールだって言うの。ゲートボール何てじいさんばあさんがするものだと思っていたから、ずっこけたわ」

「ふーん。じゃあ、だめだったって訳ね」

「そういうこと」

「ところでさあ、今日面白い人に会ったんだ」

「男?女?」

今の佐代子にとっては、どんな人物であるかよりも、男のほうに関心がある。

「残念ながら、女性よ。彼女、先週私たちの職場に入って来たんだけれど、前世療法ができるんだって」

「前世療法?それって、何?」

「あら、佐代子さん、知らないの?佐代子さんは、輪廻(りんね)って信じる?」

「輪廻(りんね)って、人が生まれ変わることでしょ?うん、信じている」

「それだったら、話しやすいわ。今いろんな問題を抱えている人の中には前世にその問題の原因がある人がいるんだって」

「それは、ちょっとどうかなあ」

佐代子は、はなはだ懐疑的であった。

「まあ、聞くだけ聞いて。ブライアン・ワイスってアメリカの精神科医が始めたものなんだけれど、そのきっかけっていうのが面白いのよね。ブライアンの患者の中に水恐怖症の人がいて、いろんな治療法を試みたけれど、どれも不成功だったんだって。それで、子供の時、何かが起こって、そのトラウマから水恐怖症になったのかもしれないと考えて、その患者さんに退行催眠をかけたんだって。そしたら、なんと大昔エジプトに住んでいた時、洪水に見舞われて、抱いていた子供ともどもに流されて、溺死する場面が現れたんですって。これには、ブライアンもびっくりしたそうよ。あの世何てないんだと思っていた人だったから」

「それで?」

「水恐怖症の原因が分かったら、嘘のように、水恐怖症の症状がすっかり消えてしまったそうよ」

「ふうん」

「それでね、新しく同僚になった、リリーさんていう人、前世療法のできる人で、来週の日曜日に前世療法のワークショップをするっていうんだけれど、一緒に出てみない?」

「まあ、行ってみてもいいけれど」

佐代子は来週の日曜日はデイトの予定をいれていないので暇だったし、ちょっと興味をそそられた。

「良かったあ。私一人ではちょっと行きづらいなと思っていたけれど、佐代子さんと一緒なら安心だわ」

「それって、どこであるの?」

「コミュニティー・センターであるんだけれど、迎えに行ってあげるわよ」

「そう。それじゃあ、お願いね」と、佐代子はワークショップに行く約束をして電話を切った。

参考文献:ブライアン・ワイス 「前世療法」

著作権所有者:久保田満里子

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すさまじきものは宮仕え(後編)

 隅田と2か月ぶりに会った。隅田はAPECの首脳会議が日本の地方都市で開催されることになったので、その準備と後始末のために出向させられていたのだ。2か月ぶりに見る隅田は少しやつれて見えた。

 メニューから適当なものを選んで、ウエイトレスが去ると、私は早速聞いた。

「どうだった、日本は?ご家族に、会えた?」

「それどころじゃなかったよ。ともかく、大変だったよ。毎日仕事が終わるのが午前4時。出勤時間が午前8時半だから、4時間の睡眠時間しかとれなかったよ。毎晩というか毎朝帰ったらバタンキューだよ。それに朝目覚ましの音に起こされて、ぼうっとした頭で出勤するという毎日だったよ」

「まあ、そんなことしたら、過労死するじゃない。そんなに大変だったのなら、上司に交渉して、人を増やしてもらえばいいのに」

「残念ながら、僕たちが任された仕事っていうのはちょっと複雑でね。いちいち人に説明しているよりは自分でやったほうが速いと思ったんだ」

「ふうん、そんなものかしら」

「僕が割り当てられた宿舎って、コップもないひどいところだったよ。日ごろ、コップのありがたさなんて感じたことがなかったけれど、コップがないって不自由なもんだね。歯磨きした後、うがいもできないし、水を飲もうにも飲めない。でもさあ、そのことを一緒に仕事をした男に言うと、『コップがないくらい、いいほうですよ。僕のところなんて布団もないんですからね』というんで、びっくりしたよ」

「まあ、布団がなかったら、どうやって寝たのかしら」

「座布団を並べて寝たそうだ。それに幸いにも夏だったからね。掛布団の代わりにバスタオルをかけて寝たそうだ」

「外務省ももっとましな宿舎を用意してくれればいいのにね」と隅田に同情して言うと、

「いやあ、僕らはまだましなほうだったんだよ」

「えっ!もっとひどいところに泊まらせられた人がいるの?」

「うん。僕たちは中堅だからまだましだったんだ。もっと新人になると、歩いて帰られない宿舎を割り当てられて、困っていたよ。午前4時には公共交通機関も走っていないから、皆タクシーを使わなければいけないからね」

「あら、そのほうがいいじゃない。夜テクテク歩いて帰るよりは」

「とんでもない。タクシー代は自腹を切らなければいけないんだよ」

そう聞いて、私はまたもやびっくりした。

「だって、仕事のためにやむを得ずタクシーを使わなければいけないんだったら、出張経費としてだしてもらえるんじゃないの?」

「玲子さんは本当に、ノーてんきだなあ。今は公務員の出費に対して厳しい監視の目が光っていてね。政府は経費削減にやっきになっているんだ。そんな状況の中でタクシー代の請求をしても請求書を突き返されるだけだよ」

「確かに、経費削減ということはよく聞くけど、そこまで厳しいとは思わなかったわ」

「あちらで仕事をしているときに、担当が変わってね。それでまた苦労させられたよ」

「また慣れない仕事でも押し付けられたの?」

「仕事自体はそれほど複雑なものでないので問題なかったんだよ。でも、テロ対策で警戒が厳しいから、僕たちはいつも身分証明書を首につり下げていなければならなかったので、担当が変わると、新しい身分証明書が必要になんだ。それで、証明書を発行する部署に電話すると、『取りに来てください』って言うんだ。行くのに1時間はかかるところだよ。『とてもじゃないけれど、5時までには取りに行けない』って言うと、『24時間対応できるようになっていますから、いつでも来てください』って言うんだ」

「それで、取りに行ったの?」

「仕方ないから取りに行ったよ。午前3時に。その日の睡眠時間を減らしてさ」

「私、外交官ってかっこいい仕事をする人たちの集まりだと、うらやましく思ったことがあったけど、あなたの話を聞いていると、まだ料理屋の女将をやっているほうが気楽みたいね」

「そうだよ。清少納言も言っているだろ。すさまじきは宮仕えだって」

「本当に、そうみたいね」と、私はうなずいた。

 私は、隅田と再会するまでは、外交官はエリート中のエリートの人ばかりで、仕事だってラクチンだと思っていたのだが、最近はその認識が一転した。まさしく、すさまじきものは宮仕えである。もっとも、清少納言の時代のすさまじきという意味は興ざめするということで、現代使われている意味とはちょっと違うようだが、華やかな国際会議の舞台裏では、隅田のような人たちのすさまじき働きがあったことは確かである。


著作権所有者:久保田満里子

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